桂由美デザインならではの独創的な世界観が広がる黒留袖です。高貴な藤色を基調としているので、上品で落ち着いた印象。それでいて、描かれている意匠がバラエティに富んでいるので、様々なストーリーが詰まっています。平安貴族の生活を思わせる御所車は、外を眺める窓の部分が半蔀になっていて風にそよいでいるよう。中の様子に想像が膨らむ風流な演出です。人が乗る屋形の部分や車輪にも細やかな文様が施され、凝った趣向。御所車の周りを囲むのは牡丹や菊、桜といった華麗な花たちです。刺繍によって浮き出るように立体的に表現されたものや、豪華な金彩で表情をつけたもの、金箔で輝きを加えたものなど、描写の仕方は多種多様。その間で静かにたなびく熨斗にも、控え目なタッチで吉祥文様が描かれていて、一つ一つに幸せへの願いが込められています。後ろ姿へかけて広がっていく桜の花は、可憐な花びらを散らしながら、お祝いの日を共に寿いでくれているようです。