和の情緒あふれる霞と遠くに浮かぶ山々を背景に爛漫の桜のなかをしずしずと進む、2台の御所車。そんないにしえの雅やかな風景が、桂由美のセンスで現代によみがえった色留袖です。メインの文様である御所車は車文のひとつで、源氏車とも呼ばれます。上前にわざわざ2台の御所車が描かれているのは、なにかわけでもあるのでしょうか。たとえば貴人と姫様が満開の花を愛でるためにお出かけされた場面でしょうか。それとも恋の道行きでしょうか。思わずロマンチックな物語を紡いでみたくなるような柄ゆきです。技術的にも、典雅な御所車を取り巻く桜や青もみじは、熟練の職人による金彩画法。桂由美の先進的な意匠が映えます。霞に浮かぶ山の稜線には満開の桜と吉祥文様を詰め込んだ末広がりの地紙が置かれ、おめでたい雰囲気を高めています。後ろ身ごろは、可憐な野山の景色。甘さを抑えたピンク地に散りばめられた桜や青もみじが優雅な風情を奏でます。